最高裁判所第三小法廷 平成2年(オ)1860号 判決 1992年2月18日
上告人
エス・ウント・エー有限会社
右代表者取締役
ハルトウイッヒ・ゾンデルホフ
右訴訟代理人弁護士
中町誠
八代徹也
被上告人
村上由朗
右訴訟代理人弁護士
遠藤憲一
武内更一
右当事者間の東京高等裁判所平成元年(ネ)第三三四一号賃金等請求事件について、同裁判所が平成二年九月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人中町誠、同八代徹也の上告理由第一点及び第二点について
労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの。以下同じ。)三九条一項にいう全労働日とは、一年の総暦日数のうち労働者が労働契約上労働義務を課せられている日数をいうものと解すべきところ、これを同旨の見解に基づき、原審の適法に確定した事実関係の下において、上告会社の新就業規則に定める一般休暇日は労働者が労働義務を課せられていない日に当たり、したがって、同就業規則中、右の一般休暇日が全労働日に含まれるものとして年次有給休暇権の成立要件を定めている部分は同項に違反し無効であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第三点について
原審の適法に確定した事実によれば、上告会社の就業規則は、年次有給休暇権の成立要件、年次有給休暇期間の賃金支払義務について、法定年次休暇と法定外年次休暇を区別せずに定めており、両者を同様に取り扱う趣旨であると認められる。また、使用者に対し年次有給休暇の期間について一定の賃金の支払を義務付けている労働基準法三九条四項の規定の趣旨からすれば、使用者は、年次休暇の取得日の属する期間に対応する賞与の計算上この日を欠勤として扱うことはできないものと解するのが相当である。したがって、右事実関係の下において、上告会社の新就業規則中、年次有給休暇権の成立要件を定める部分は無効であるから、法定年次休暇と法定外年次休暇のいずれに関しても、その権利の成立要件は旧就業規則によるべきものとした上、上告会社は、被上告人がその年次有給休暇権に基づき年次休暇を取得した第一審判決添付の未払賃金一覧表の年休権行使日欄記載の各日について、給与を支払わないものとし、また、賞与の支給に係る勤怠考課に当たりこれを欠勤として扱うことはできないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 貞家克己 裁判官 坂上壽夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)